求人

【疑問】
なぜ『退官前夜』のサイトに、求人が一件も載っていないのか?
「仕事、ありますか?」
──そんなDMが届くたびに、
俺はそっと火鉢の灰をかき混ぜる。
目を細め、その言葉の奥にある“熱”を探る。
なぜなら、その問いには──
ただの情報欲求じゃない、
“火”の気配があるからだ。
求人を並べるのはかんたんさ。
年収順に、条件順に、勤務地順に。
アルゴリズムを使えば「おすすめ」だって勝手に教えてくれる。
きれいに並べりゃ、それっぽく見える。
それで心が満たされるなら、たぶん、俺の出番はない。
でも──あなたは、それをしにここに来たんじゃないだろう?
「仕事、ありますか?」
その一言の奥に、
小さく燃えている違和感を見る。
言葉にするにはまだ早いけれど、
黙っていれば、いつか自分を焼き尽くしてしまいそうな、
“内なる火”だ。
「このままじゃダメな気がする」
「変わりたい。でも、どうすれば?」
「俺にできることって、なんだ?」
誰にも言えずに、夜に一人考え込む男たちへ。
火鉢が差し出すのは、求人じゃない。
“問いの火”だ。
問いに向き合える者だけが、本物の転職にたどり着ける。
あなたの中にくすぶっているもの。
それは、間違いなく“火”だ。
燃え残った夢かもしれない。
怒りかもしれない。
悔しさ、もどかしさ、焦り──名付けられない感情たちが、火を作っている。
求人情報?給料の多さ?勤務地の条件?
そんなのは後だ。真っ先に見るべきは、「自分の中で何が燻っているか」だ。
火鉢の炭は、静かだ。
だがそれは、終わった証じゃない。
すでに燃えた者が、静かに熱を宿す姿だ。
過去、何を背負い、何を守ってきたか。
その火は、もう一度燃え上がるために今、じっと力を溜めている。
求人?
それは“燃え上がったあとに照らされる場所”にすぎない。
本当に探すべきは、
あんたの中にまだ残ってる火種だ。
正解を探して右往左往するより、その火を育てるやつが、結果として強くなれるのさ。
なぜ「退官前夜」は最初から求人を載せないのか?
それは、求人がゴールじゃないからだ。
火鉢が差し出すのは、
正解ではなく、“問い”だ。
転職とは職を変えることじゃない。自分という火を、どこで燃やし直すかを決めることだ。
年収。勤務地。福利厚生。
それらはすべて「後」の話だ。
──もっと、手前にあるもの。
静かに、けれど確かに、胸の奥で燻っているもの。
それに気づけるかどうかで、人生は変わる。
実際にいたよ。
ある男は、長年いた地方の基地を離れ、
誰も知る人のいない東京の片隅に飛び込んだ。
理由は?──情熱、だった。
誰にも強いられたわけじゃない。
求人票にも「正解」は書かれてなかった。
でも、自分の中で火がついた瞬間が、たしかにあった。
「ここで、俺を燃やしてみたい」
それだけを頼りに、一歩を踏み出した。
不安はあった。けど、それ以上に、自分の火を信じた。
そして今──
彼の人生は、前よりもずっと温かい場所で、ちゃんと燃えている。
ここは「答え」を教える場所ではなく「問い」に火を灯す場所。
なぜ、今の自分を変えたいのか?
なぜ、このままじゃダメな気がするのか?
なぜ、心がモヤついているのか?
その答えは他人が書いた求人票の中にはない。
「どこで働くか」より「何に燃えているか」。
それが見えないままでは、どんな求人を選んでも、また迷うことになる。
だから俺は、安易に「この会社がおすすめです」なんて答えない。
求人を羅列して、それっぽい未来を語るような、
そんな“合理化された親切サービス”をやりたいわけじゃない。
“次の歯車”を決めるだけの仕分け作業──
そんなのは、転職じゃなく“配置換え”だろう?
誰にでも同じように見える魂の通ってない提案。
使い捨ての未来を量産するような仕事。
そういうのは流儀じゃないね。
似たような夜を過ごす、まったくちがう2人の話。
ある男がいた。
A:正解を探し続けた男
Aさんは、毎晩スマホで転職サイトを漁ってる。
「年収」「残業」「有休消化率」……条件で未来を決めようとした。
口コミも見て、平均年収も調べて、「どこが正解なんだ?」って。
でも、いざ内定が出ても、モヤモヤしてる。
「ここに入って、本当に良くなるんだろうか?」
「また数年後に辞めたくなるんじゃないか?」
そうやって、正解探しの旅から抜け出せない。
もうひとりの男は違かった。
B:問いに火を灯した男
Bさんは、最初から求人を探さなかった。
代わりに、毎晩ノートに自分の気持ちを書き始めた。
「なぜ、今の仕事にイラついてるんだろう?」
「過去の経験で、心が熱くなった瞬間は?」
「これからの人生、何に時間を使いたい?」
「俺は、何を悔しいと思っている?」
問いに向き合ってるうちに「人の変化を手伝うのが好きなんだ」って気づいた。
そこから、見る世界が変わった。
求人情報サイトの条件じゃなく、「自分の火が燃える場所」を探し始めた。
どこで、もう一度、自分を燃やすか
「何に怒ってる?」
「何に飢えてる?」
「何に火をつけたい?」
──それは、自分を置き去りにした時間かもしれない。
──それは、誰にも見せたことのない、自分だけの役割かもしれない。
──それは、まだ言葉にならないけど、確かに心のどこかにある光じゃないかな。
それに向き合う時間は、静かだ。
誰も教えてくれないし、誰も代わりに答えてはくれない。
でも──
この問いにちゃんと火を灯せる男は、強い。
なぜって、
一度や二度、転んだっていいんだ。
迷ったって、止まったっていい。
その火さえ消えてなければ、何度でも立ち上がれる。
何度でも、自分を“もう一度生き直す”ことができる。
だから俺は、求人の前に問いを渡す。
焚きつける炎じゃない、炭火のような問いを。
すぐには燃え上がらなくても、
じっくりあたためてくれる問いを。
自分の中にまだ言葉になっていない問いがあるなら。
「本当の自分を、まだ燃やし切っていない」と感じるなら──
火鉢があなたに贈るのは“夜”だ。
このサイトには、派手なスカウトメールも、
「未経験歓迎」という軽い誘い文句も、
ひとつもない。
代わりに、あるのは──
あなたがまだ言葉にできない“声”に、そっと寄り添う、「静かな夜」だけだ。
火鉢とは、ただ暖をとる場所じゃない。
燃え尽きかけた火に、新しい空気を送るための場所。
「正解」を探すな。
「火」を探せ。
今の自分が“燃え尽きかけた灰”に見えてもいい。
まだ火は、完全には消えていない。
退官前夜は、そんな男たちのための場所だ。
あなたが自分の火を確かめる夜。
誰もジャッジしない夜。
すぐに「正解」をくれる場所じゃない。
けれど、ここは
あなたの「火」を消さないために存在する。
──俺の役目は、
その炭に空気を送り、轟轟と炎を立ち上げることだ。
くすぶる熱を、不死鳥のごとく、再び燃え上がらせることだ。
「求人、あるよ。」

でもさ、もう決めちゃっていいのかな?
焦って動いた先に、ほんとうに“自分”はいるのかな?
今のあんた、きっと──
頭よりも先に、胸がざわついてるんじゃないか?
何かが、うまく言えないまま、
心の奥でチリチリとくすぶってる。
「このままでいいのか?」
「俺は、このまま終わるのか?」
……あんたの中には、まだ“火”が残ってる。
まだ消えてないんだよ。
それだけは、確かだ。
だったら、まずはそいつを見てみたらどうだ?
風を送ってやって、もう一度起こしてやるんだ。
それからだって、遅くはない。
職を選ぶのは、“火の場所”を決めるってことなんだから。
火鉢は、夜のためにある。
求人を並べる前に、自分の中に火を灯す。
派手な炎じゃなくて、
静かで赤い、芯の熱だ。
ここにあるのは、誰かの「おすすめ」じゃない。
転職ってさ、「探すこと」よりも、「向き合うこと」なんじゃないかって。
向き合うってのは、年収や待遇じゃなくてさ
自分の“中”にある声に、耳を澄ますこと。
そして、誰の言葉でもなく、自分で選ぶってこと。
夜が深くなったころ、
火鉢の隅で、静かに赤く残る炭を見つめながら、
そんな時間を持っても、いいと思う。
焦らなくていいさ。
求人は、消えない。
でも、「自分の火」を見つめる夜は、
きっと、一生に何度も訪れないから。