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夜の静けさに溶けるように、ビルの脇の階段を軋ませて上がった先。
そこには看板も出ていない、ただ一つの提灯にだけ灯る文字がある。

──「退官前夜」

階段を軋ませ、静かに扉を開けると、
そこはバーのようでいて、どこか寺のようでもある。
木の香り、火鉢のぬくもり、
常連が置いていった湯呑み、制服の胸ポケットに入ってた名刺、
出番を待つように棚に並んでる。

ここは、誰に許可をもらうでもなく、
「おつかれ」と言っていい場所。
肩書も、敬礼も、持ち込む必要はない。
ただ火鉢を囲みながら、自分の声を聞くだけだ。

メニューはない。
話すも良し、黙るも良し。
出すのは、炭と、話の火加減だけ。

さあ、あなたの「前夜」を、
この場所でゆっくりと火にあててみませんか。

静かなる行軍

  • 【第一夜】迷いの理由に名前をつける(心の棚卸し)
  • 【第二夜】スキルではない、「意味」の棚卸し(自衛官として何を残したか)
  • 【第三夜】“民間”の現実(現場レポ・失敗談・成功談)
  • 【第四夜】これからの“戦力化”を考える(家族・お金・資格)
  • 【第五夜】自分で、自分に命令を下す(決断)

転職・再就職の“リアル”:「企業は自衛官をどう見ているか?」

Step4|家族・お金・これから:「不安と夢を両立させる戦略」

「炭ってのはね、もう一度、燃え上がることができるんだよ。」

そう言いながら、火鉢の中の炭をひとつ、そっと箸で転がしてみる。
ジュ…と、かすかな音が立つ。まだ、生きてる。

炭は、木が一度、炎になって──
自分の中の油もガスも、すべて吐き出して──
それでもなお、残った“芯”みたいなもんだ。

真っ黒に見えるけど、
風を送れば、奥の奥で赤くなる。
新しい酸素をもらえば、また静かに、でも確かに、燃える。

だから俺は思うんだ。
「もう終わった」なんて顔をしてる男ほど、
実は、いちばん深く熱を持ってるんじゃないかって。
見えなくなっただけで、火が消えたわけじゃない。

──火鉢薫/火鉢前夜より

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